2011年12月4日日曜日

自民提出の銃刀法改正案に警察庁「ノー」 鳥獣駆除「規制緩和で増加につながるか疑問」



農家にとって深刻な問題となっているイノシシやシカなどの野生鳥獣による農作物被害の改善を目的に、国会に提出されている銃刀法の改正案に関して、警察庁が「問題あり」と反対している。ライフル銃の所持許可要件の緩和などが柱だが、銃刀法の規制は凶悪事件の発生を受けて段階的に強化されてきた経緯があるためだ。一方、国内では猟ができる資格を持つ人が年々減少しており、猟友会からは「野生鳥獣のさらなる増加につながる」と法改正を推進する声がでている。
猟友会の意向反映
 農水省の統計によると、平成21年度の鳥獣による農作物被害は213億円。前年度比で14億円も増えた。
 こうした実態を受け、鳥獣被害防止特措法、鳥獣保護法、銃刀法の3法の改正案が自民党から議員立法で提案された。現在は参院農水委員会に付託されているが、審議入りには至っていない。
 このうち、銃刀法では、(1)ライフル銃の所持が許可される期間を「散弾銃を所持してから10年」から「同5年」に短縮(2)猟銃(ライフル銃と散弾銃)所持許可の更新期間を「3年」から「5年」に延長(3)技能講習の当分の間の凍結-の3点が改正の柱となっている。
規制緩和で猟銃の所持者を増やし、鳥獣駆除の増加につなげる狙いだ。鳥獣駆除の中心的存在である「大日本猟友会」(東京)の意向が強く反映されている。
段階的に規制が強化
 銃刀法はこれまで、凶悪事件の発生などを受けて規制が強化されてきた。
 昭和43年には「金嬉老(きんきろう)事件」、45年に「ぷりんす号シージャック事件」とライフル銃を使った凶悪事件が相次いで発生。46年の法改正で、殺傷能力が高いライフル銃の所持については、散弾銃の所持後、10年が経過しなければ認めないことにした。
 また、40年代から50年代初頭にかけて狩猟ブームがあり、猟銃の許可丁数は右肩上がりで増加し、暴発や誤射といった事故も多発。そのため、53年の改正で所持許可の更新期間が「5年」から「3年」に短縮されて、更新のたびに法令と銃の扱いについて講習を受講することなどが新たに盛り込まれた。
 最近では平成20年の改正でストーカー行為などの危険がある人物についての欠格事由が拡充されたほか、更新時に射撃の技能講習の義務化も図られた。

続発する事件・事故

 今年に入ってからも、交際のもつれから男が女性をライフル銃で射殺(4月、鹿児島市)するなど、猟銃使用による計22件の事件・事故が発生、6人が死亡している。
警察庁では「今回の銃刀法の改正案には問題があるので反対だ。規制緩和が野生鳥獣駆除の増加につながるかについても疑問だ」と話す。
 例えば、ライフル銃の所持許可の期間短縮について、22年末現在でライフル銃所持許可要件を満たしている散弾銃所持者のうち、ライフル銃所持者は3割程度にすぎず、「10年」から「5年」に短縮しても急激な増加は見込めないと推測している。

「農林被害増える」

 一方、大日本猟友会では「狩猟者の減少は野生鳥獣のさらなる増加につながり、農林業被害の増加に拍車をかける」と主張。3点に及ぶ銃刀法改正を強く求め、狩猟人口の減少に歯止めをかけたい考えだ。
 同会によると、全国で射撃場が整備されていないのは、散弾銃で4都県、ライフル銃で15都県。
 そのため同会では「例えば、東京・小笠原諸島の猟銃所持者が技能講習を受講するには、飛行機便がないため船で3泊4日で東京に着き、そこから群馬県などの射撃場に行って受講することを考えると、1週間以上の時間が必要で、耐えられる状況にない」と指摘。銃刀法改正のうち、特に技能講習の凍結による負担の軽減を求めている。
     ◇
 散弾銃とライフル銃 散弾銃は狩猟やクレー射撃に用いられるショットガン。散弾は、発射されると、薬莢(やっきょう)に込められた多数の細かい鉛が銃口から散らばる。ライフル銃は命中精度を高めるために銃身内部にらせん状の溝が切られている小銃。散弾銃に比べ、弾の飛距離が長く、殺傷力も高い。

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