2012年3月23日金曜日

「発射確認!」…そのとき直紀防衛相は 迎撃シミュレーション


4月12~16日までの間と予告された「衛星」打ち上げ。防衛省・自衛隊はどう対処するのかシミュレーションした。
 《4月×日午前11時30分 発射方向南 1発》
 防衛省は発射の1分後、「飛翔(ひしょう)体情報」を発表した。その頃、地下3階の中央指揮所は緊迫していた。
 「SEW入感」。アナウンスが指揮所に響く。SEWとは米国の早期警戒衛星の情報を指す。北朝鮮北西部の「西海衛星発射場」をとらえた衛星情報は、米本土→ハワイの米太平洋軍司令部→在日米軍司令部→防衛省-というルートをわずか10数秒で駆け巡る。
 自衛隊トップの岩崎茂統合幕僚長が自らSEWを確認すると、内局幹部がマイクで叫んだ。「発射確認」。即座に首相官邸地下1階の危機管理センターにも情報は伝えられた。発射から2分後のことだった。
 SEWで一定の着弾予測地点も割り出すことができ、海上自衛隊のイージス艦と航空自衛隊の地上配備のレーダーが一斉に探知に入る。その直後、指揮所に「下甑(しもこしき)探知」と連絡があった。下甑島(鹿児島県)に置く新型レーダーFPS-5がミサイルを捕捉したのだ。ほどなくイージス艦のレーダーも探知した。
 《11時37分 落下物1 落下推定地域は韓国・全羅道の西約×キロ》
 発射から7分後。弾道ミサイルから切り離された1段目は韓国沖に落下。ミサイル本体は沖縄方面に近づいてくる。

「領土・領海に飛んでくれば撃ち落とします」。防衛省11階の省議室にいた田中直紀防衛相に内局幹部が報告した。沖縄本島と先島諸島の近海に展開したイージス艦2隻は海上配備型迎撃ミサイル(SM3)をいつでも発射できる状態だ。
 迎撃の法的根拠は自衛隊法の「弾道ミサイル等に対する破壊措置」だ。有事での防衛出動とは異なる平時の運用で、「等」には衛星も含まれる。措置には(1)日本に飛来する恐れがある場合、防衛相が首相の承認を得て迎撃を命令(2)飛来の恐れが「ある」とは認められなくても事態が急変する可能性がある場合、防衛相が事前に迎撃を命令-の2通りがあり、今回は後者だ。
 「防衛相の職責は重いんだな」。大きな重圧を感じた田中氏はコーヒーをすすった。
 発射から10分、弾道ミサイルは沖縄本島の西上空を通過した。このままフィリピン方向に飛行すれば迎撃する必要はないが、海・空自の統合任務部隊指揮官として横田基地(東京都)で迎撃を指示する斉藤治和航空総隊司令官は気が抜けなかった。2006年7月にテポドン2号は発射数十秒後に空中分解しているからだ。
 先島上空で部品が落下したら…。そのとき、高射部隊の隊員の言葉を思い出した。「PAC3はミサイル本体から部品に追尾対象を切り替えられます」。PAC3が最後の砦(とりで)となる。

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