2011年8月25日木曜日

きれい事で終わらず視聴者への説明を


芸歴30年余り、民放各局に数多くのレギュラー番組を持つ大物タレント、島田紳助さん(55)が突如芸能界を引退した。23日深夜の緊急会見で辞める理由を「暴力団関係者との親密な関係」と話したが、納得した人がどれだけいるだろうか。「お客への最大限のサービス」は、芸人として最後まで全うするのが礼儀。長年人気を支えてきた視聴者に対し、説明を十分に尽くすべきだ。
 紳助さんは、明石家さんまと並ぶこの世代の突出したエースだった。
 漫才ブームをけん引した「紳助・竜介」のツッパリ漫才の斬新さ、後輩の「ダウンタウン」の漫才を見て「こいつらにはかなわん」とコンビをあっさり解消した潔さ、報道番組の司会、映画監督、音楽ユニットのプロデュースなど新分野に飛びこむフットワークの良さ。好き嫌いは別にして、同年代として常に気になるタレントだった。
 近年、テレビのお笑い番組は、私生活の過剰な暴露、瞬間芸、変な顔など、本来の意味で「芸」とは言い難いネタが幅を利かせている。
 それらも芸、と言う向きもあるかもしれないが、要は程度の問題だ。結果として芸人たちはどんどん小粒化し、消費され、飽きられてあっという間に消えてゆく。芸人の多くは「笑わせる」のではなく、専ら「笑われる」存在になりつつある。
 紳助さんは、反射神経と言葉感覚の鋭さを武器に、「笑わせる」ことができる数少ない芸人だった。その上、対抗できる若手が育ってこないため、彼への番組依存度は高まる一方だった。
2004年、吉本興業の女性社員を殴ってけがをさせる事件を起こしたが、約2カ月間の活動自粛を経て復帰し、以前にも増して活躍した。テレビ各局は「紳助さん引退」のニュースを、民主党代表選などを差し置いてトップで報じた。
 苦しいとき、笑うことで少し救われたという経験は多くの人が持っているだろう。「笑い」は私たちの日常生活で一定の効能を果たしている。
 次々と苦難が襲いかかり先行きが見通せないこの時代に、笑うことの重要性は一層増しているのではないか。そのための身近な手段であるテレビ番組の、優れた担い手の一人が消えるのは残念だ。
 唐突な引退宣言は、いや応なく余計な臆測を生む。ネット上では、既に引退理由の無責任な詮索があふれている。
 「十数年前のトラブル」とは何か、解決してもらった暴力団関係者へのお礼はどうしたのか、そして何より、なぜ今「引退」なのか。一視聴者として疑問は尽きない。彼の卓越したキャリアを汚さないためにも、「一瞬てっぺんに立ったから悔いはない」などときれい事で終わらせず、きちんと説明してもらいたい。(SANKEI EXPRESS

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